テーマ「共に生きる」
- 2021.11.5
-
- 所属:
- 仁誠会クリニック光の森
- 職種・資格:
- 看護師
- 名前:
- 外山 絢子
-
仁誠会では、「心ひとつ」の理念の浸透のため、毎日その日の指針となるフィロソフィを制定しています。その中から、自分が取り組んだテーマを論文にまとめ、年一回、全職員の中から最優秀賞、優秀賞を選び表彰しています。今回は優秀賞を受賞した論文をご紹介します。
「なぜこんな病気になってしまったのだろう?生きている意味なんてあるのかな。」透析前、ベッドに腰かけ下を向きながらぽつりと呟いた患者の一言に、私はかける言葉が見つからなかった。
医療に携わり、数年。今まで生きる意味を患者に問われるたび、対象にとっての最善を考え常に前向きな言葉をかけてきた。無論、この時も前向きな言葉かけが出来たら善かったに違いない。
しかし私は喉元まで出てきた「きっと良くなりますよ。」という言葉を飲み込み、ただその場に佇むことしか出来なかった。完治する事はないと知りながらも前を向いて生きようとする患者に対し、安易な表面上の言葉がいかに心を傷つけるか思い見たからである。
一生向き合っていかねばならない病を抱えながら透析が一部と化した日常を送る。一体患者はどのような気持ちで日々を過ごしているのだろうか。思いを馳せてみるものの、正解のない問いに納得のいく答えは出なかった。
今まで医療に携わる中で患者から多くを学び、気づきを与えられてきた。そして患者を看て、関わり、感じ、看取るという心に深く刻まれる経験を通じて死に寄り添い「生」を学んだ。病の受け入れ方、受け入れるまでにかかる時間は人それぞれだが、多くの患者を看る中で深く考えさせられる場面を幾度か経験した。
だからこそ、透析と共に人生を歩んでいくという生き方をも受け入れた患者の心情についてとても興味深く、理解したい、そう思わされたのである。
私は「なぜ生きるのか」という言葉の意味を模索するかのように、日々患者と関わる中でその人の生きる意味、つまり生きがいを探した。趣味や楽しみ、その人が夢中になれることは何か?と、会話を通じて患者の人生を知るべく心と耳を傾けた。
そんな中、明るい未来とは裏腹に多くの患者が抱えている漠然とした不安もまた感じ取れてしまう。「なぜこんな病気になってしまったのだろう?」この一言は、多くの患者の気持ちを代弁しているかのように思えた。
ベッドに目をやり溜め息をついた患者は、終わりのない治療への葛藤と虚無感に存在意義を感じられなくなってしまったのではないだろうか。或いは、生活の中に溶け込んでいたはずの透析という未来を繋ぐ治療が、いつしか生きる事を強いられるだけの延命治療になってしまっていたのかもしれない。
あの時、私にどんな声掛けが出来ただろう?ただそっと寄り添い、話を聴いてあげていたら心がすっと軽くなったのかもしれない。「〇〇さんはそう思うのですね?」と共感し、話をする事で溜め息を笑いに変えることが出来ていたかもしれない。
「いつ死んだっていい。もうボロボロだから。」と目に涙を浮かべて話をされた透析患者の言葉も、私の胸に深く刻まれて忘れられない。脳梗塞による麻痺を受け入れられず、精神が不安定になった患者の話を聴き、励まし1か月。「少し手が動くようになったよ、嬉しい。透析、もう少し頑張れそう。」と以前にはない柔らかな表情を私に向けてくれた。生きることを諦めなかった清々しい姿を目の前に、私は胸がじんと熱くなるのを感じた。
生きるとは、その人が生きようとした瞬間に「生きる」のであり、その人がその人らしく生きることを受け入れる、つまり人生を主体的に紡いでゆくということなのではないだろうか。この先治療と共に歩む長い時間を受け入れることこそが透析患者にとって今を生きる、ということに繋がるのだと私は考える。
透析と共に生きる、つまり透析を人生の一部として受け入れ前に進んでいくことが出来るよう、私達は支援していかねばならない。そう、私達医療者は患者と共に生きている存在なのである。
入職して10カ月。今こうして日々の業務を遂行出来ているのは、周りの方々のお陰であり、他者があっての自分なのだと気づかされるたびにとても心が温かくなる。患者に寄り添うだけでなく、スタッフ同士も寄り添い互いを助け合う、そんな雰囲気がこの光の森クリニックには存在しているのだ。
共に生きるということ、それは他者を受け入れ、受け入れられるということ。つまり、「心ひとつ」なのである。
医療者が患者へ歩み寄り心を通い合わせる事が治療への安心感を生むとともに患者の生きる意欲も引き出す。そして患者だけでなくスタッフ同士が心をひとつにしてチームワークを大切にすることもまた患者の「生きる」を支え、よりよい医療の提供に繋がるのではないか。
生きる意味を感じ得たからこそ、これからも患者が透析と共に自らの人生を受け入れ、主体的に歩んでいけるよう心通ずる関わりをしていきたい。そして、患者が一歩立ち止まってしまった時、生きる意味や生きがいを見出せなくなってしまった時、私はこう伝えたい。「私達は心ひとつ、共に歩んでいきましょうね。」と。
優秀賞を受賞して・・・
この度は、優秀賞を頂戴し大変光栄に思います。入社以来多くの方々に温かくご指導頂けたお陰であり、諸先輩方、共に学ぶ仲間の皆様に心より感謝申し上げます。至らない点ばかりですが、どうか今後ともご指導・ご鞭撻のほど宜しくお願い致します。