スタッフの声Voice of staff

テーマ【人生を楽しむ 】

  • 2020.11.14  
  • 所属:
    仁誠会クリニック黒髪
    職種・資格:
    看護師
    名前:
    石口 小百合
  • フィロソフィ論文 最優秀賞 石口さん

仁誠会では、「心ひとつ」の理念の浸透のため、毎日その日の指針となるフィロソフィを制定しています。
その中から、自分が取り組んだテーマを論文にまとめ、年一回全職員の中から最優秀賞1名、優秀賞若干名を選び表彰しています。今回は、最優秀賞を受賞した論文をご紹介いたします。


「透析中はきつい。透析中はそれに伴った話ばかりで、楽しい話がしたい」患者さんのS氏からそんな言葉が聞かれた。今回、血圧が低めにて透析困難な状況があった。クリニックで何か出来ないかとなり、当初は透析歴も長いので、これまでの透析生活を話してもらい、写真を映し出し思い出話をしてもらう予定でS氏と話をした。少しでも楽しい計画ができたらと情報収集を行った。S氏は耳も聞こえにくく目も悪いので、大勢の前で話すのは苦手なので、これまでの透析の事に対して聞き取りされる分は良いが、自分で話していくのは厳しいと返答があった。その中で、楽しい話がしたいと言う言葉だった。上司から、ナラティブ看護の人生紙芝居をしたらどうかと提案があった。

ナラティブについてまとめた本を読んだ。何度も読み返した。人生紙芝居、何か心打たれるものだった。まずは自分で理解し、S氏へ話をもっていった。人生紙芝居について承諾はしてくれ、幼少期から色々と話をしてくれた。4年前に赤とんぼに入居した頃がちょうど透析をやめたいと本人の訴えがあり、病みの軌跡の聞き取り記録が残っていた。今回、透析困難な状況があり、聞きにくい部分だったが、以前の事も伝え今どう思っているのかも聞いた。きついけど、透析を自分からやめる決断までは出来ないと言われた。私たちに何ができるのか?これまでの思い出を聞き出すにあたり、私たちがきちんと知れていないS氏のこれまでの人生の姿があった。S氏の話をくみ取る事で、透析室での関わりに変化が必要と理解できた。また、話をする中で家族との深い関わりを感じた。家族も共に歩んできた人生を紙芝居とし、本人・家族・関わるスタッフと共有したいと思い、S氏の人生紙芝居作成へとすすめた。

話の中で美味しい物が食べたいと言われ為、お食事会開催も計画とした。紙芝居作成にあたり内容を詳しくしたく、その時々の気持ちを聞いていたら急に恥ずかしいと言われ、話がストップしてしまった。家族の前で発表するのも承諾されていたが、家族の前での発表は恥ずかしいと頑なに拒否へと変わった。聞き取りはそこで中断し、それ以上は聞き取りを行わなかった。S氏がその事を家族にも伝えており、家族は本人が読まなくても良いと言っているから、本人が言うようにして下さいと言われた。ここまで作成したので家族にも伝えたいと思ったが、発表は難しいかとやや断念した。新型コロナが流行る今、外出も厳しく少しでも楽しいひと時、またリフレッシュしてもらいたくナラティブ看護を取り入れた食事会を迎えた。食事は中華となったので、病棟の空き部屋を中華風に飾り付け、素敵な部屋となった。

当日、芦北より母親・弟さん、市内から妹さんに集まってもらった。紹介程度と言いながら人生紙芝居を強行突破で発表した。家族にはどうしても聞いて欲しかった。本人は恥ずかしいようで、ずっと下を向いた状態だった。ご家族は聞かれたあと、涙をため感動されていた。本人のテンションが下がりどうしようかと思ったが、今回は赤とんぼ黒髪介護士と共同実施だったため、サプライズで大好きなご当地ビールの地図の作成、また好きなビールのプレゼントで笑顔へと変わった。家族に買ってきてもらった中華料理は大皿に盛り付けし、外食での中華屋さんを味わってもらった。ビールもすすみS氏が紙芝居は読まなくていいと言ったのにと何度も家族に笑いながら話されているのが廊下まで聞こえてきた。こちらもすみません読まなくても良いと言われたけど、せっかくだったからと言い部屋へ入って行くとお互い笑い話となった。普段静かなS氏は凄く笑顔でよく喋り、楽しさがこっちにまで伝わってきた。部屋は閉めていたが笑い声が廊下まで響きわっていたとあとからスタッフが声をかけてくれた。多分、その時は紙芝居を何度も読まなくて良いといった後のやり取りだったかもしれない。

食事会を無事に終え、その日夕食を終えたS氏が見えた。S氏の所に行くと、今回久々4人で集まりたくさん話が出来たと言われた。人生紙芝居の時は下を向いていたから見ていなかったと言われ、何か作ってくれてたんでしょ?と言われた。パソコンでイラストを貼りつけ紙芝居を作成したことを伝えた。本人からありがとうございましたと言われた。拒否はあったが、人生紙芝居を発表して良かったと思った。

人生を楽しむ、楽しさに気づかせてあげることが大変重要だとある。S氏を知っていく私の楽しみ、そしてS氏の楽しさを引き出す機会となった。これから私たちが関わっていく中で透析室での関わりの変化にS氏の知らなかった人生話が加わり、S氏のもっと日々の生活が楽しいものへと繋がって欲しい。そしてこれからのS氏の人生がもっと楽しいものへとなってもらう為、私たちはこれからもS氏の人生に寄り添った看護を行って行きたい。


最優秀賞を受賞して・・・

受賞できて大変嬉しく思います。今回の取り組みができたこと、黒髪クリニックの先生・スタッフのおかげだと思っています。いつも後押ししてくれる上司に感謝の気持ちでいっぱいです。初めての取り組みで凄く学ばされ、私自身が楽しさに気付かされていました。患者さんを知り、寄り添うことをこれからも大事にし、看護を行っていきます。