スタッフの声Voice of staff

テーマ「患者さん・利用者さん第一」

  • 2021.10.29  
  • 所属:
    赤とんぼ訪問看護ステーション
    職種・資格:
    看護師
    名前:
    田上 千代子
  • フィロソフィー論文仁誠会

仁誠会では、「心ひとつ」の理念の浸透のため、毎日その日の指針となるフィロソフィを制定しています。その中から、自分が取り組んだテーマを論文にまとめ、年一回、全職員の中から最優秀賞、優秀賞を選び表彰しています。今回は優秀賞を受賞した論文をご紹介します。


 

私はドライである。見た目や性格を知っている人は私の事をそう思っていないと思う。仕事もドライでプライベートを重視している所があり、仕事はプライベートを充実するためのもの。自分の人生を生き抜くために必要なものという考えで仕事をしていた。

4月より、訪問看護へ異動になった。
元々訪問系は興味がなく、申し訳ないが業務命令として受けたものの、訪問看護という仕事に余り気が進まないままの異動だった。そういうこともあり、今迄と異なる環境、看護業務や管理業務にと覚える事も多く、毎日がパニックと緊張の連続で家にいても緊張している状態だった。
1日1日を乗り切ればいい、リスクや苦情が起きず訪問業務も滞りなく無事に終わればいい。そう思いながら3か月過ごしてきた。3か月を過ぎ4か月目に入る頃、少しずつだが業務に慣れ、周りを見る余裕が出来てきた。

私は老健で在宅支援を行って来た。在宅系の有料も当法人だけであるが、利用者の様子を見てきた。よく訪問系の友人や先輩からは、「施設よりも訪問が良い。その人の生活人生を支えるには在宅に限る。やりがいも施設とは全然違うよ。」と何度も在宅在宅と聞かされていた。また、書物や研修などでもそのような事を耳にしたが、今迄も在宅支援を行いながらその方の生活を考えることも多く、それに応じたケアを探りながら実践してきたので、「在宅が良い。」の意味が正直理解できなかった。

訪問に行き始めると、顔が違う様にそれぞれの環境や背景が異なる。
施設では本人が居て、入所に必要なものが用意されている。ほぼお揃いの状態。在宅はお揃いが無い。家によっては、清潔で整った環境で介護力も十分にある人もいれば、昭和の家をつぎ足し、床がぼこぼこ、雨漏りや隙間風が通るような所で居住している方、足の踏み場もなく新聞紙半分しか座れず荷物が散乱している環境におられる方。特養入居出来る程のADLなのに、妻が一人で入浴から食事排泄までされている方。老夫婦で内服忘れも日常茶飯事。食事も誰が用意するのかと思うような方。

訪問してみると、想像以上に整っているとは言えない環境の中で暮らされている方が多いのも驚いた。そして、このような環境でも家に居たいのか?それでも家が良いのか?なぜ?という考えが出てきた。その疑問を通勤途中でも寝る前にも考えた。

金銭的な部分も大きいと思うが、在宅は、その人の人生、生きてきた証が詰まっている。それはその方にとっての日常であり当たり前の事なのだと思った。シンプルだけど私が自分の家で暮すことと同じなのだと思った。
私達は突然訪問しその環境を見て、そこで生活して満足なのかと疑問が湧いたが、その方にとっては、何年何十年も繰り返している事で日常なのだと。そう考えると施設入所や入院は非日常なのだと思った。そして、自分の人生を自分の選択で生きている。自宅に住み続けることを選択している。
そのためには、家族もそうだが、ケアマネやへルパー、医療従事者など色んな方の支えがありその方の人生、自分の人生を生ききるために支えている。

その中の1つが訪問看護である。
家で自分らしく過ごす為には、まずは安定した体調が軸になる。しかし、高齢者は様々な持病を持たれている。加えて認知力、筋力低下や障害、介護力が弱い等の事から、体調を維持するのが困難なケースも多い。そこに訪看が入る事により、健康維持のサポート、主治医との連携、関係機関への情報提供等在宅の中心を担っていると改めて感じた。

そのようにギリギリの所で暮らしている利用者宅へ訪問すると、笑顔で迎えられ、帰る時は手を合わせ合掌し頭を下げられ感謝を伝えられる。そこまでしなくていいという思いもあるが、彼らにとって訪問看護は在宅生活を送る為に頼りになる存在。時には代弁者となる場面もあり、利用者にとってなくてはならない存在なのではないだろうか。

そう考えた時に、私のドライな考えが消え、もっとその方の人生を支えたいと思う様になった。その方を知りたい、その方が何が好きで何が楽しみなのか、どう生きたいのかと興味が湧き、自分で相手の立場になり考えもした。1日でも長くその場所で暮らせるように支援がしたいと思った。同時に訪問看護の面白さを少しだが感じるようになった。

在宅生活を支えるためにはまだまだ看護師として未熟な所が多く、学びを深め、利用者患者様へ還元したいと思う。始めたばかりの訪問看護であるが、「あなたが来てくれて良かった。これからもお願いします。」と言われる看護師でありたい。

 


優秀賞を受賞して・・・

論文を書く時、何を書こうかと悩むことが多いのですが、今回人事異動により新たな環境、業務等行う中で、実際やってみて感じた事。考えさせられたこと等そのまま書いてみました。
異動して半年。半年が何年に思えるほどの濃厚な体験をさせて頂いています。異動後、見守り支えて頂いた上司や同僚の皆さん。そして、暖かく受け入れてくださった利用者患者様やご家族様に感謝です。

私の経験を読んで、訪問看護に興味のある方が増え、やってみたい!!と思って頂けると幸いです。
ありがとうございました。